Column

2025年9月10日
犬と猫の病気

高齢犬の認知症|症状・予防と上手な付き合い方

高齢化社会は人間だけの問題ではありません。近年はペットの高齢化も進んでいます。猫は認知症は比較的まれですが、犬は高齢になると認知症が増えてきます。今回は、愛犬が認知症になったときに、飼い主さんにできることを一緒に考えてみましょう。

犬の認知障害症候群とは?

獣医療の世界では犬の認知症のことを「認知障害症候群(CDS)」と呼びます。近年の研究では、人間が認知症になる確率よりも犬が認知障害症候群になる確率のほうが高いことがわかっています。カリフォルニア大学の研究によると、11~16歳の高齢犬のうち約62%が、認知障害症候群の症状に1つ以上当てはまったと報告されています。

●犬の認知障害症候群はどのようにして起こるのか?
高齢犬の脳は、人のアルツハイマー型認知症の前段階と考えられています。人のアルツハイマー型認知症では、「β-アミロイド」と呼ばれるタンパク質が脳にたまり、神経の働きを妨げて記憶障害などを引き起こします。

犬の脳にもこの「β-アミロイド」がたまることが確認されており、その程度が認知障害症候群と関係していると考えられています。
人間のアルツハイマー型認知症=犬の認知障害症候群、とは言えませんが、共通点があるのです。

犬の認知症によく見られる10のサイン

●実際に犬の認知症はどのような形で現れるのか?
1. 飼い主さんが名前を呼んでも反応しない
2. 昼間はよく寝るのに夜眠らず、夜中に意味もなく鳴く
3. 食欲があって下痢もしていないのに、体重が減ってくる
4. 狭く暗い場所に入りたがり、出られなくなる(後ずさりできない)
5. あてもなくトボトボと歩き続ける、円を描くように歩く
6. トイレを失敗する回数が増える
7. 頻繁に震える
8. これまでできていたコマンド(お手・待てなど)を無視するようになる
9. 活動量が減る
10. 家族や親しい人を見分けられなくなる

この中で、特に飼い主さんにとって大きな負担となるのは「夜鳴き」でしょう。

認知症は飼い主さんの生活や心にも大きな影響を与えますが、研究の進歩により予防や治療も少しずつ可能になってきています。
アメリカではすでに犬の認知症治療薬が認可されており、投薬で約70%の犬に改善が見られたという報告もあります。

対策① ~DHAを与える~

皆さんも「DHA」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。「頭がよくなる」「記憶力を保つ」などといわれ、魚やサプリメントで摂取している方も多いと思います。

DHAは脳の働きをサポートする栄養素で、人のアルツハイマー病患者はそうでない高齢者よりもDHA値が低いことがわかっています。つまり、DHA値が低いほどアルツハイマーやうつ病、記憶障害が出やすいというのです(ニューヨークのコーネル医療センターの研究による)。

DHAなどオメガ-3脂肪酸と言われる成分を含む処方食や、DHA配合のサプリメントを愛犬に与えることで、認知症の予防や進行を遅らせる効果が期待できると言われています。

対策② ~活性酸素を抑える~

りんごやバナナを放置しておくと茶色に変色しますが、これは「酸化」という現象です。実は体内でも同じ現象が起こり、「酸化ストレス」と呼ばれています。

「酸化ストレス」は、人ではガンや糖尿病、アトピー性皮膚炎、アルツハイマー病などに関与していることがわかっています。犬や猫でも酸化を抑えることは、腎臓病や糖尿病、喘息などの予防に役立つと考えられています。

また、獣医療の分野では「酸化を抑えること」が犬や猫の細胞障害を減らし、腎臓病や糖尿病、猫喘息などの予防に繋がることがわかっています。「認知障害」「老化現象」「酸化ストレス」の関係はまだ完全には解明されていませんが、一説では抗酸化作用のある物質を投与することも予防につながるといわれています。

抗酸化作用を持つ栄養素(ビタミンEなど)を含むフードやサプリメントを取り入れることで、免疫力アップや病気予防につながります。

対策③ ~刺激を与える~

人間と同じように、毎日が単調すぎると犬も認知症になりやすいといわれています。一般的に飼い主さんと接する機会の多い室内犬より、刺激の少ない室外で暮らす犬に認知症が多いともいわれています。つまり、刺激を与えることは認知障害の予防にもつながるということです。
 ・声をかける
 ・撫でる
 ・音楽を聴かせる
 ・散歩で外の空気や匂いに触れさせる
こうした小さな刺激が、脳を活性化し認知症予防につながります。

おわりに

犬の認知症は、飼い主さんにとってもつらいものです。
最後にご紹介したいのは、46歳でアルツハイマー病と診断された元政治家クリスティーン・ブライデン氏の言葉です。

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スピードを落として、ちゃんと目を見て話しかけてほしい。
表情を見て何を言おうとしているか考えてください。
そして、その人の要望に沿って環境を変えていってください。
認知症で多くを失っても、愛は最後まで感じることができます。

クリスティーン・ブライデン

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愛犬が認知症になったとしても、この言葉を思い出すことで、心を寄り添わせるきっかけになるかもしれません。

 

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