Column

2025年4月15日
予防・健康管理

マダニが媒介する人畜共通感染症《SFTS》とは

暖かくなり、お散歩が楽しい季節になりましたね。しかし、この時期に特に注意していただきたいのが、お散歩中に愛犬・愛猫に寄生する可能性のあるマダニです。

「マダニなんて、聞いたことあるけど、そんなに危険なの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。実は、マダニは私たち人間にも感染する恐ろしい病気、『SFTS(重症熱性血小板減少症候群)』を媒介することがあるのです。

このコラムでは、SFTSがどのような病気なのか、愛犬・愛猫、そして私たちの体にどのような影響があるのか、そして何より大切な予防方法についてお伝えします。

SFTSとは

SFTSは、重症熱性血小板減少症候群という、ウイルスが原因で引き起こされる感染症です。2011年に中国で初めて報告され、日本では2013年に初めて感染が確認されました。主にマダニがウイルスを保有し、そのマダニに咬まれることで感染します。

この病気は、人だけでなく犬や猫などの動物にも感染する人畜共通感染症として警戒されています。

猫の症状

猫は犬に比べてSFTSウイルスに感染しやすく、重症化しやすい傾向にあります。
SFTSウイルスに感染すると、以下のような症状が見られることがあります。

元気消失、食欲不振
発熱
嘔吐、下痢
黄疸(目や皮膚が黄色くなる)
貧血
呼吸困難
神経症状(けいれん、麻痺など)

猫の場合、重症化すると命を落とすケースも少なくありません。特に屋外に出る猫や、マダニが付着しやすい環境にいる猫は注意が必要です。猫に上記のような症状が見られたら、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。

犬の症状

犬がSFTSウイルスに感染しても、症状を示さない不顕性感染の場合が多いとされています。しかし、感染が成立した場合には、以下のような症状が見られることがあります。

元気消失、食欲不振
発熱
嘔吐、下痢
ふらつき、運動失調

これらの症状は、他の病気でも見られる一般的な症状なので、SFTSと診断することは容易ではありません。もしマダニに咬まれた可能性がある場合や、上記のような症状が見られる場合は、すぐに動物病院を受診し、獣医師に相談するようにしてください。

人の症状

人がSFTSウイルスに感染した場合、潜伏期間は6日~2週間程度と言われています。主な症状は以下の通りです。

発熱(38℃以上)
全身倦怠感、食欲不振
消化器症状(吐き気、嘔吐、下痢、腹痛など)
頭痛、筋肉痛、関節痛
意識障害、神経症状(重症化した場合)
出血傾向(皮下出血、歯肉出血など、血小板減少による)

これらの症状は風邪や他の感染症と似ているため、診断が難しい場合があります。しかし、SFTSは早期の診断と治療が重要です。マダニに咬まれた後、上記のような症状が見られた場合は、すぐに医療機関を受診し、マダニに咬まれたことを伝えるようにしてください。

治療方法

SFTSに対する特定の治療薬は、現在のところ存在しません。そのため、それぞれの症状を和らげるための対症療法が中心となります。

動物の場合、脱水や電解質バランスの乱れを補正するための輸液療法、吐き気や下痢を抑える薬の投与、貧血や出血傾向に対する治療などが行われます。人の場合も、症状に応じて点滴や解熱剤、吐き気止めなどが処方されます。重症化した場合は、集中治療が必要となることもあります。


SFTSを媒介するマダニとは

SFTSウイルスを媒介する主なマダニはクモの仲間で、体長が約1~数ミリと比較的大きく、肉眼で確認できます。主に森林や草むら、畑などに生息しており、散歩中の犬や猫に付着して吸血します。一度吸血を始めると、数日から長いものでは2週間近く皮膚にしっかりと食い込んだまま吸血し続けます。吸血前は扁平ですが、吸血後はお腹がパンパンになり、小豆から大豆くらいの大きさにまで膨れ上がります。

マダニは春から秋にかけて活動が活発になりますが、地域によっては冬でも活動していることがあります。特に、暖かい日が多くなると、マダニの活動も盛んになるため注意が必要です。


予防方法

SFTSには有効な治療薬がないため、何よりも予防が最も重要になります。マダニから愛するペットとご家族を守るために、以下の予防策を徹底しましょう。

1. マダニの駆除薬を定期的に使用する

これが最も効果的な予防方法です。動物病院で処方されるマダニの駆除薬には、様々なタイプがあります。

スポットオンタイプ(滴下型):首筋に滴下するタイプで、皮膚に浸透してマダニを駆除します。月に1回の投与が一般的です。

経口タイプ(内服薬): おやつ感覚で与えられるチュアブルタイプや、錠剤タイプがあります。投与後すぐに効果が現れるものもあり、月に1回の投与が一般的です。

愛犬・愛猫の年齢や健康状態、ライフスタイルに合わせて、最適な駆除薬を獣医師と相談して選びましょう。年間を通して定期的に投与することが大切です。特に、マダニの活動が活発になる春から秋にかけては、忘れずに投与するようにしてください。

2. 散歩時の注意

草むらや藪への立ち入りを避ける: マダニが多く生息する場所への立ち入りはできるだけ避けましょう。

長袖・長ズボンを着用する: 飼い主さんが散歩に行く際も、マダニから身を守るために、肌の露出を少なくすることが大切です。

3. 散歩後のチェック

散歩から帰ったら、必ず愛犬・愛猫の全身をくまなくチェックしましょう。

毛をかき分けて皮膚を確認: 耳の裏首周り脇の下内股指の間など、マダニが好んで隠れる場所は特に念入りに確認してください。

指の腹で触って異物がないか確認: マダニは小さく見つけにくいこともあります。指の腹で丁寧に触っていくと、ポツンとした異物として見つかることがあります。

飼い主さん自身のチェックも必要です。体や洋服にマダニが付着していないかよく確認しましょう。

4. マダニを見つけた場合の対処法

もし愛犬・愛猫にマダニが付着しているのを見つけても、決して無理に引き剥がさないでください。 マダニの口器が皮膚の中に残り、炎症や化膿の原因になったり、かえってウイルスが体内に注入されてしまう可能性があります。

マダニを見つけた場合は、慌てずに動物病院を受診してください。除去後は、その後の症状に注意しながら様子を見守り、もし体調に変化が見られた場合は、すぐに再度受診するようにしましょう。

まとめ

繰り返しになりますが、SFTSは予防が最も重要です。

獣医師と相談し、愛犬・愛猫に合ったマダニ駆除薬を定期的に投与する。

散歩時は草むらや藪への立ち入りを避け、帰宅後は必ず全身をチェックする。

もしマダニを見つけたら、無理に取らずに動物病院を受診する。

これらの対策を徹底することで、大切な家族であるペットと飼い主さんご自身の健康を守ることができます。マダニが活動する季節だけでなく、年間を通して予防意識を持つことが大切です。

PAGE TOP